ドラマ「スローダンス」を人生に疲れた時に観たくなる理由

出典:フジテレビホームページ

以下、作品に対するネタバレが含まれていますので気をつけて下さい。

久しぶりに見たくなってドラマ「スローダンス」を見た。

僕が好きなドラマベスト5には入るだろう。通算で10回くらいは見ているだろうか。

相変わらず素晴らしかった。

先に言っておくと、このドラマは豪華俳優陣の割にそこまで人気の出たドラマではない。

また、熱中して噛り付いて見るようなドラマでもなければ、先が気になって一気に見るようなドラマでもない。

でも、僕は繰り返し見ることを止められない。

皆がぼんやりと感じている「自分の人生がしっくりこない」感じ

「スローダンス」は、妻夫木聡と深津絵里が主演の2005年7月からフジテレビ系の「月9」枠で放送されたテレビドラマである。

妻夫木聡が演じる芹沢理一は、自動車教習所で教官として働いており、今の生活にそこまで不満はないものの、かつて志していた映画監督になるという夢が心のどこかでずっと引っかかっている。

また、3年前に別れた恋人・あゆみ(小林麻央)の事が忘れられず、こちらもずっと引っかかっている。

しかし、仕事も恋も何か引っかかってはいるものの、具体的な行動を起こす訳ではなく、何となく日々の生活を送っている。

そんなどこか自分の人生にしっくりきていない青年である。

現実にもこういう人は多いのではないだろうか。

いや、僕みたいな20代〜30代のサラリーマンはほとんどがそうではないだろうか。

自分のやりたいことはあるけど(もしくは、やりたいことはなかったとしても)、変に謙虚で新しいことに一歩踏み出せないし、実は心の底では、そこまで踏み出す気もない。

それでいて、本当に俺はこのままでいいのか、俺の人生それで良いのかとも思っている。

かくいう僕もその1人である。

サラリーマンとして、仕事にも慣れ、日々辛いことや苦しいこと、悩みはあるものの、何とかそれと折り合いをつけて、心の中で何かが引っかかりつつも現実を生きている。

仕事以外でもそう。何となく結婚して家庭を持って家を買って…。ふとした時に、これが自分がやりたかった事なのか?と思ってしまう。

そんな心情を理一は体現してくれている。

と、まあこれだけだったら、よくある作品である。

よくある「一度の人生、好きなことをして生きるべきだ!無駄な時間は過ごすな!」なんて暑苦しさがない。それがいい。

出典:FOD

世にある多くの作品は、往々にしてこの後に、「一度の人生、好きなことをして生きるべきだ!」「今すぐ動き出せ!」みたいな熱いメッセージが含まれがちである。

こういう考え方は、特に現代において、時代の先を行く成功者たちが声高に叫んでいる。

終身雇用は終わりを迎え、多くの仕事はAIに取って代わられる。

ただでさえ仕事が少なくなるこれからの時代は、嫌々仕事してるような奴は淘汰される。好きな事に没頭している奴に勝てる訳ない。

そもそも嫌々働いてるならなぜその仕事辞めないの?好きじゃない仕事して幸せになれる訳なくね?

確かにその通りだと思う。そういう時代なんだろう。

でも、こういう話を聞くと、「わかったからちょっと待って」と思うのは僕だけだろうか。「わかってるから。でもそんな焦らさないで」と。

理解もしてるし、異論もない。でも、急にそんな事言われても。そんな感じかな。

スローダンスに話を戻すと、漫画スラムダンクの有名な一節が、昔、教育実習に来ていた衣咲(深津絵里)が生徒だった理一に向けて言った言葉として登場する。

バスケ部の顧問である安西先生が、一度は不良の道に進んだミッチーにかつて言った言葉「諦めたらそこで試合終了ですよ」である。

この言葉を聞いた理一は、一度は映画監督の夢に向けて進むものの、なんやかんやで教習所の先生をやっている訳であるが、

今度は教習所の生徒として過去とは逆の立場で出会った衣咲から

「好きなんでしょ映画。叶わなくてもおじさんになってもおじいちゃんになっても夢は映画監督ですって胸張って生きればいいじゃん。諦めなきゃ夢はずっと終わらないんだから。」

と言われ、

いよいよ本格的に映画監督の夢へ進む決心をする。

そして、教習所の仕事を辞める。

そして、映画を撮らずタコライス屋でバイトを始める。

なんてダメな奴なんだ理一。

でも、このドラマの良い所は、この緩さなのである。

スローダンスにも、やりたい事をやれというメッセージは確かにある。だか、何というかそこには、時間を惜しんでストイックに努力をし続けて夢を叶えるみたいな少年ジャンプ的な暑苦しさがない。

人生なんて何とかなるから、やりたい事をマイペースにやっとけよ、みたいなそんな緩さがある。

よく晴れた日曜日の朝のような爽やかな世界観

その緩さを表現するのに一役かっているのは、ドラマの世界観である。

まるで、よく晴れた日曜日の朝みたいに爽やかでゆったりとした時が流れているようなそんな世界観である。

その世界観を作り上げているのは、まずは、作中に使われている音楽。

特にAAAの宇野実彩子が唄う曲の数々は、優しく心を包み込んでくれるような名曲ばかりである。

次に、妻夫木聡、深津絵里、藤木直人、広末涼子、田中圭、西野亮廣、小泉孝太郎など、爽やかで癖のない豪華俳優陣(なぜか途中で真木蔵人という急に濃いめの人が出てくるが)。

その他にも、
・藤木直人と広末涼子の美男美女の胸キュンの告白シーン

・同級生を演じる若かりし妻夫木聡、田中圭、西野亮廣のわちゃわちゃ感

・度々登場するヘミングウェイコーヒーや夢の蔵に集まる登場人物達の軽妙なやりとり

・深津絵里の思わずにやっとしてしまうような自然な演技

と、挙げだしたらキリがない程、素晴らしい部分がたくさんあるドラマである。

「ゆっくりゆったり踊るように」。僕が繰り返しこのドラマを見てしまう理由。

このように、このドラマ特有の緩さと世界観が、人生において定期的にやってくる悩みに対して、「まあいいんじゃない?そんな事もあるよ」と言ってくれているようで。

まあまあ、そこまで深刻に考えずに「ゆっくりゆったり」身を任せてたらなるようになるよと言ってくれているようで。

その感じが、いろいろ悩みを抱えて深刻になっている時に観ると、肩の力がふっと抜けて、救われる感じがするのである。

だから、定期的にみたくなる。心が疲れた時や人生に悩んだ時に見たくなるのである。

これが僕が繰り返しこのドラマを観たくなる理由だ。

最後に、昔から何でも出来る理一の兄・英介(藤木直人)が突然エリートサラリーマンを辞めた時の言葉を紹介しようと思う。

「羽しんどくて。スズメとかインコとかああいう小さい鳥って、パタパタパタパタ絶えず羽動かしてないと落っこちちゃうでしょ。そうじゃなくてふわーっと飛ぼうかと。鷹とか鷲みたいに漂うように、ゆっくりゆったり踊るように飛びたいんだよね。」

あー、危ない。またパタパタ羽を動かし始めていた。僕も「ゆっくりゆったり踊るように(スローダンス)」飛びたいんだった。